著者

高橋祥子

第3回 失敗を許容しない・安心できない組織は滅びる

2021/10/22 09:04

みなさん、こんにちは。ジーンクエストの高橋祥子です。このニュースレターでは、生命科学の研究者として生命のしくみや原理・原則を解説しながら、それを知ることがビジネスシーンにも活用できることを経営者の視点から紹介します。

 

第3回は、生命は失敗を繰り返すことと仕事における失敗の解釈を取り上げ、そこから失敗を責める上司やSNSの炎上について考えます。

 

生命は失敗許容主義

仕事でもプライベートでも、なるべく失敗したくないと考えるのは自然なことです。プロジェクトは成功させたいし、買い物をするときはレビューを読んで慎重に判断するなど、誰もが失敗しないために努力しています。それでも、失敗してしまったときには、自分の実力不足、努力が足りなかったと思ってしまうかも知れません。

 

しかし、変化に強い「生命」の仕組みは失敗をすることを前提としています。前回お話しした多様性は、「人類は遺伝的に多様である」という側面に当てていましたが、もう一つ、「地球上にはさまざまな生物種がある」という意味もあります。しかし、すべての生物種が繁栄を極めてきたわけではありません。環境の変化などによって絶滅した種も数多くいる中で、どれかが生き残ればいいという戦略をとっています。生命における失敗を「その生物種の絶滅」とするならば、生命は失敗を許容していることになります。失敗許容主義です。

 

これは遺伝子レベルでも同じことが言えます。ジーンクエストでは多くの方のゲノムデータを扱っていますが、どの遺伝子がいいとか、どの遺伝子が悪いということはありません。一人一人が異なる多様な遺伝子パターンが存在することそのものが人類にとっての価値になっています。ある遺伝子をもっているから失敗ということは絶対にありません。その瞬間の環境では生存に有利だったとしても、環境が必ず変化する前提に立っており、異なる環境ではまた別の性質が生存に有利になる可能性が大いにあるためです。

 

そして大切なのは、失敗の判断は後からしかできないということです。ある時点で、「この生物種は何百年後に絶滅する」と予測することは難しいことです。だからこそ、生命は多様性という原則に従って、とにかく多くの遺伝子パターンや生物種をつくることに執着しています。「探索数を増やす」と言い換えてもいいと思います。

 

この原則をビジネスに取り入れれて考えてみると、企業で事業やプロジェクトを立ち上げるときも、失敗しないことだけを突き詰めるのは非常に困難です。あるとき環境が激変するかもしれませんし、複雑さが増す現代では予測可能性は低くなっています。そのことは、コロナ禍で皆さん実感したはずです。

 

そのような世界では、失敗しないことだけを大切にするよりも、とにかく探索数を増やす、実行可能な施策を増やすことのほうが大事であり、変化に強い生命の仕組みと同じだと思います。これまで地球上に誕生した生物種の90%以上が絶滅したことを考えると、いかに生命が失敗を繰り返し、許容してきたかが窺えます。失敗を許容せずに多様性を生み出してこなければ、21世紀に生命はここまで生き残っていなかったかもしれません。

 

事業や人生においても、もちろん成功を目指して取り組むことは大事だという前提ですが、結果的にもし失敗してしまったとしても、失敗を責めることよりも何度でも挑戦し続けることの方がはるかに大切だと生命から教えられます。

 

失敗を責める上司は論外

失敗し得ることが前提とはいえ、最初から失敗を目指しているわけではもちろんありません。生物一つひとつは、自分が生き残ることに必死です。私たちも、なんとか事業やプロジェクトを成功に導こうと努力を注ぎます。私も経営者なので、各事業やプロジェクトはうまくいってほしいと願っていますし、成功するかどうかの結果は大事です。

 

しかし、その一方で、途中のプロセスも重要視します。成功したかどうかの結果は、その結果が出る前に評価できません。しかも、結果が出るまでには長い時間がかかる場合もあります。結果だけがすべてであると考えていると、結果が出るまでに時間がかかることは何もできなくなってしまいます。結果はもちろん後から評価しますが、どういう考えで取り組むかというプロセスも大事です。

 

結果だけを重視し、ましてや失敗したことを非難する上司は論外だと思っています。失敗を責めたところで、基本的に部下は成長しませんし、チームとしてもうまくいきません。失敗から建設的に学び、常に前に進み続ける状態に焦点を当てた方がよいと考えています。

 

成功を約束することはできませんが、どういう状態でいることが成功率を高めるのかというプロセスの評価軸は持っておくべきだと思います。たとえば失敗から学んでピボットするときにも、変えるものと変えないものを明確に定義しておくとか、手段は変えるけど目標は変えないとか、直近の目標は変えるけど大きく達成したいことは変えないとか変化に対する理解の解像度を上げておくことも一つです。

あるいは、個人レベルでは、転職するときに目指すものや自分がもっている技術は変えずに、会社や業界を変えるという考え方も、プロセス重視という意味では共通しています。

 

SNS炎上では情報共有ではなく感情増幅が起きている

失敗を批判する上司の話をしましたが、似たような光景をSNSでよく見かけます。失言に対する過剰な非難や罵詈雑言が多く寄せられる、いわゆる炎上というものです。

 

もちろん、正しく冷静な批判は場合によっては必要です。その発言はこの点が違うという「情報の共有」はあって然るべきです。しかし、最近の炎上を見ると、徹底的に叩くこと自体が目的になっており、そこまで叩く必要があるのかと疑問に思います。強い感情を発したほうがシェアされやすい、目立ちやすいということもあって、「感情の増幅」が起きているのです。

 

感情にはポジティブとネガティブがあります。性善説と性悪説で考えると、人間にはどちらも本来備わっていると考えられています。進化の過程で集団生活を基本として生き延びてきた人類には他人と協力するという前提がありますが、時には人を疑ったり出し抜いたりしないと生き残れません。人間には性善と性悪の両方があり、そのどちらが引き出されるかは、その人は良い人か悪い人かという問題ではなく、どちらを引き出す環境に置かれているかの問題です。SNSの中でもTwitterは匿名性が強いせいなのか、性悪の部分が引き出されやすいように感じます。サービスプラットフォーマー側の表示アルゴリズムでうまく変えることができると思うのですが。

 

他人の失敗を叩くのは、自分の環境に少なからず不安があることの裏返しではないかと私は考えています。自分に満足していて幸せな人は、他人を批判する必要がありません。自分の生活に不安を覚えているときに、他人の状況が全部筒抜けのSNSに触れていると、相手を叩いて自分が安全な位置にいると思い込んでしまう心理があります。

 

生命の原理・原則は「個体として生き残り、種として繁栄する」ことです。まず個体として生き残り、安全が担保されたら種全体のことを考えるという順序があります。子どもは自分の生存可能性がほぼゼロなので、他の人のことを考えずに、自分だけが生き残るようわがままな行動をとります。同じように、SNSで叩く人も、相手のことを考えずに自分が生き残りたいという気持ちが強いと思います。

 

また、社内でも、他人を批判したり、けなしたりする人はいないでしょうか。そういう人は、自分の今の立場や存在に不安を感じていて、自分のことしか考えられず、全体のことが頭に入っていないかもしれません。そのときには、批判することを批判するよりも、「あなたはとても大切な存在です」と、その人の存在に安心感を担保してあげるのが良い方法だと思っています。

 

安心とは、身体的なものだけでなく、精神的・経済的なものも含みます。心理的に安全な環境をつくることで、初めて他者に対して優しくなれるのだと思います。

 

---
【本のお知らせ】発売の山口周さんの新著『思考のコンパス ノーマルなき世界を生きるヒント』に対談をご一緒させていただきました。ニューノーマルではなくノーノーマルな世界でどのように考えるかという7人の対談。他の方の内容もとても面白いのでご興味ある方は是非ご覧ください。
Amazonでも10/20から販売始まっています!
https://amzn.to/30dV1Vl
---

*本記事に関する質問・感想・意見がございましたら、ぜひこちらまでお問い合わせください。発信者ともご共有させていただきます。

*このコンテンツは無料で配信されています。定期購読すると、有料コンテンツを購読する事が出来ます。

【あわせて読みたい】
<三浦瑠麗>今回のダイアログ:「男はATMだから」という年上男性の発言に“違和感”が…
<MB>MBが最近買った垂涎私物&コーディネート 「高額なものから安価なものまで幅広くご紹介!」
<田端信太郎>「会計も知らずにビジネスを語るな!」~脳筋でも分かる身近な会計 第2回
<大室正志>NewsPicksの品川駅広告にみる 「大義名分+何かムカつく=炎上の法則」
<高橋祥子>(第1回) 生命科学者、そしてベンチャー経営者の高橋祥子です

 

WISS | 発信者の世界観をそのまま届ける月額ニュースレター

このニュースレターをシェアする