著者

高橋祥子

第2回 仕方なく「多様性」受容していませんか?

2021/10/15 08:58

みなさん、こんにちは。ジーンクエストの高橋祥子です。このニュースレターでは、生命科学の研究者として生命のしくみや原理・原則を解説しながら、それを知ることがビジネスシーンにも活用できることを経営者の視点から紹介します。

第2回は、9月に開催された東京パラリンピックから社会や職場の多様性を考え、価値観をアップデートすることの重要性をお話しします。

 

ゲノムは多様であり、人類全員が少数派

パラリンピックでは障害とは関係なく、純粋にスポーツとして楽しめるシーンが多くありました。そして、多様性という言葉もキーワードになりました。しかし、今の日本社会や日本企業が使う多様性という言葉からは、マイノリティも受け入れてあげようという、やや上から目線のようなものを感じてしまいます。男性が多い管理職に女性を優先させようとか、外国籍や障害者も採用しようとか、マジョリティがマイノリティを受け入れて「あげる」という風潮があるように思えます。

そもそも多様性という言葉は、生命科学では「地球上にさまざまな生物種がある」、「人類は遺伝的に様々な配列を持つ個体がいる」という意味で使われます。前者は、いろんな種が存在することで、環境が変化したときに絶滅する種がいても別の種が生き残ればいいという生物にとっての戦略で、生物全体の生存可能性を上げることを示します。

後者の多様性が、最近の社会で使われている意味合いになりますが、表面的な多様性しか捉えていないように思えます。つまり、性別や国籍、障害の有無という、非常にわかりやすい見た目や属性でグループ分けしているため、多数派のグループ側が少数派を受け入れることが多様性だと錯覚してしまいます。

しかし、多様性の定義は、「人類は遺伝的に多様である」ということです。これは、私が仕事でゲノムデータを見ていると本当に実感できます。一卵性双生児を除いて、誰一人として同じゲノム配列を持つ人はいないのです。しかも、ほとんどの人は「レアバリアント」と呼ばれる、希少な遺伝子型の違いをもっています。そのレアな配列のほとんどはどのような形質に関係するものなのかは明らかになっていません。私のゲノムにもレアバリアントが含まれています。その意味では、人類全員が少数派であり、希少な存在です。

だから、マイノリティの人がかわいそうだからという理由で多様性を認めるとか受け入れるという発想ではなくて、多様性が人類にとって当たり前であって生命のために重要である、という考え方になってほしいと思います。

 

同性愛がもつ遺伝子は進化上有利?

多様性に関係して、最近、同性愛に関する面白い論文が発表されたので紹介します。同性愛者と異性愛者のゲノムを比較した研究で、アメリカとイギリスの約48万人を解析したものです。その結果、同性間の性行動に関係する遺伝子型が、異性愛者では性的パートナーの数の多さに関係することがわかったとのことです。同性愛に関する遺伝子は進化上不利のように思われますが、実は異性愛者がもつと子孫を多く残すために機能している可能性がある、ということです。

この論文1つだけでは結論づけることはできませんが、一見すると生存に不利であるように見える行動や特徴は、実はそうではない可能性があると改めて思うことができます。

LGBTQは生存に不利とか、子孫を残すのに寄与していないという考えは、感覚的な間違ったものにしか過ぎません。ゲノム研究が進んで人々の理解も進み、科学的に考えて多様性が重要であるという冷静な認識が広まればと思います。

 

多様性の前に同質性を考える

企業においては、多様性という言葉を「さまざまな背景や能力を持つ人を集めること」として使われるシーンがあります。決して間違ってはいませんが、単純に考え方がバラバラの人たちを集めてもうまくいくわけがありません。特に、人数の少ないスタートアップ企業では「多様性を重視します」と言って、価値観や意見が異なる人たちも集めた結果、組織がまとまらずに崩壊してしまうことは珍しくありません。

多様性は「どこが違うか」というところに注目しがちですが、同時に「どこが同じか」という「同質性」にも注目すべきです。「人類は多様である」と言っても、ゲノムの99.9%は共通しています。0.1%だけ違うから、初めて多様であると認識できます。基本となる部分は共通しているという前提が、多様性にはあります。

企業における同質性、つまり基本部分とは、企業理念や文化です。スタートアップ企業なら、ミッションやビジョンに共感できるかがポイントです。同じ目標を目指すという前提があり、その上で性別や国籍などに関係なく、さまざまな背景や能力をもつ人が集まっている状態こそが多様性です。

ちなみに、性別・国籍・年齢など、目で見てわかりやすい多様性だけに注目して採用すると、むしろ組織全体に悪影響をもたらす可能性があることが、アメリカ・イリノイ大学からの研究報告で示されています。多様な知見・能力など「タレントの多様性」に着目することで、組織のパフォーマンスを向上できると考えられています。

 

多様性時代を生き抜くために

多様性やLGBTQに対する考え方は、以前よりは理解が広まっているかと思います。しかしながら、いまだに多様性に理解を示さず、自分の思い込みだけで的外れな発言をしてしまう失言が後を断ちません。「女性がいると会議が長くなる」とか、「LBGTは生産性がない」とか……。

差別やマイノリティ批判は、論理的に導き出されたものではなく、すべて偏見に基づいたものです。偏見とは、過去の成功体験や失敗体験など、生きてきた中で「これはきっとこうに違いない」と思考が固まっていることです。しかし、成功体験も失敗体験も、環境が変われば見方や考え方は変わります。そこで、大切なのは、「いかに価値観をアップデートできるか」という点です。

意識して価値観をアップデートしている人もいれば、無意識のうちにアップデートしている人もいます。私の知人で年齢が2倍くらい上の方が最近、このように言っていました。「昔は、芸能人が同性愛者であることをカミングアウトすると『気持ち悪い』と思ったけど、最近は『本当に言えてよかったね』と嬉しく思うようになっていることに、自分でも驚いているんです」と。同性愛が自然な環境に触れ続けてきたからなのでしょう。

また、同い年の友達が、最近になって昔の有名な少年漫画を読んだのですが、下ネタやセクハラ描写に耐えられなかったそうです。昔は特に問題視されなかったのですが、今改めて雑誌に掲載されたら問題視されるかもしれません。環境も、人々の価値観も常に変わるのです。

一般的には、若い人ほど考え方が柔軟で、年齢を重ねるほど考え方が凝り固まって偏見をもちがちと思われますが、年配の方にも柔軟に物事を考えられる方は多くいます。そのような方は、若いときから価値観を常にアップデートさせ、成長と崩壊を繰り返してきたのでしょう。

いかに自分をアップデートできる姿勢があるかどうかが、多様性が当たり前の時代の中で失言をせずに生きるコツとなります。周りにイエスマンしかいない状況は、新しい価値観に触れて自分をアップデートする機会を自ら奪っているようなものであり、危険な状態です。あえて自分とは異なる意見をもつ人と交流することも、新しい環境や価値観に触れるきっかけとなります。ぜひ、みなさんも意識して自分をアップデートしてください。

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