著者

佐渡島庸平

第九章 現在と過去、成功と失敗

2021/11/12 09:59

僕たちは生きている中で自分の言葉が相手に通じない経験をたくさんする。それはそこに「ズレ」があるからだ。しかし、ズレに気づきながらも、それを深堀りすることはほとんどない。僕はそのズレは、世の中をみる解像度が違うことで生じると思っていた。でもそうではなかった。

細谷さんの『具体と抽象』を読んで、通じなさを生むのは、解像度ではなく抽象度だと気づいた。
今回、細谷さんと対談を通して「ズレ」についての深堀りを沢山した。
その内容が『言葉のズレと共感幻想』という本になって年内に出版される。
僕のブログで1章ずつ先出し公開中。

「成功」の反対は「失敗」にあらず

佐渡島 『マチネの終わりに』という作品の中で、平野啓一郎さんは「未来は常に過去を変えてる」と書いています。この言葉は、すごく僕の人生に影響を与えました。アドラー心理学でも指摘していることですが、過去の中で思い出しているのは、現在の価値観を支持するものなんですよね。現在の価値観が変わると、過去の思い出し方も変わる。過去というのは微分しようと思うと無限にできてしまって、その中から意味づけしたいもの、ストーリーにしやすいものを選択している。だから、どこからどういう意味を取り出すのかは、現在に規定されているんですね。

 現在によって過去が規定されているという視点を僕は選択しているけど、過去によって現在が規定されていると考える人のほうが多い。でも現在によって過去が規定されていると考え出すと、心がすごくラクになるし、今の自分の心の状態を良くすることに集中できる。

 例えば、人によって助けられて生きているという価値観を身にまとって生きていると、自分はこんなことがあったときにこういうふうに助けてもらった、自分はこんなにたくさんの人に助けられて生きることができて幸せだ、みたいに過去を振り返る。全く同じ経験をしていても、自分は運がないという価値観の中に生きていると、助けられたことはほとんど思い出さず、悪かった事件ばかりを思い出す。他者の力を借りず、自力で解決したと思っていると、自分は苦労して残り超えたのに、頼るのは怠けている証拠だと、極端な自己責任論になったりする。

 今の感情の自分で肯定しやすい過去を都合よく選んでいるにすぎない。だから、過去の出来事と現在の状況を因果関係として説明するのって、本当はいい加減だと思っていて。今に集中することが幸せにつながるのであれば、もはや過去は存在しないという極端な考え方で生きたほうが、幸せになりやすいんじゃないかなという気すらしています。

細谷 成功と失敗の考え方にもその要素がありますね。過去を振り返ってみて、「これは成功した、これは失敗した」というマインドセットの人が成功と失敗を分けて考えるのに対して、すべての失敗を成功までのプロセスと考える人にとっては、成功と失敗の境目はありません。

 現在から未来を見るとき、未来には成功も失敗もないわけだから、ダブリングでいえば両者は一つの丸に重なった状態で、どちらに転ぶかはまたその先の話。ものごとを時系列でどう見るかという視点は、成功と失敗の捉え方に現れると思います。

 起業家タイプの人の場合は成功と失敗を分けて考えないことが多くて、それは二次元的には失敗の中に成功があると表現されるけれども、時系列で見れば成功と失敗は一本の時間軸で、最後にあるのが成功でその間にあるのが失敗ということになります。失敗は単なるトライアル1、トライアル2という位置づけに過ぎない。

佐渡島 成功の定義って難しくて、ここではその定義に深入りせずに話しますが、社会的成功をしない人たちは、一か月とか三か月とか短い期間で考え方がころころと変わって、やり続けないという印象があります。十年二十年年やり続けて成功しなかった人って、大抵何者かになっているけど、ほとんどの人はそこまでやり続けない。ビジネスはタイミングだといわれますけど、思いついたアイディアが二十年後に来ていないってことはなくて。思いつくのも、なんらかの時代の影響なので。

 起業家の人とそうでない人の能力の差を考えると、認識能力や事務処理能力や理解力にも差があるかもしれないけれど、決定的に違うのは、考えている時間軸じゃないかと思っています。その時間軸が短い人は失敗している。もう少し正確に言うと、失敗したことにして終わらせて、次のところに行ってしまうんですよね。

細谷 そのつど「当たった、はずれた」とコイントスのように決めているということですね。これも、つながりとして見ているかどうかですね。

 成功と失敗はつながっているので、そもそも分ける意味がないでしょう。私の著書『「無理」の構造』の中では、成功と失敗の関係を図解しているんです。成功と失敗は対極にあるようだけれど、真ん中で折り曲げれば同じになる。成功の対義語は失敗ではないし、失敗の対義語は成功ではありません。成功と失敗は同じ方向にあって、反対側にあるのは「なにもしない」なんです。

 出典:  

佐渡島 これは鋭いなと思いました。いろいろなことが、折って考えられますね。

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