著者

佐渡島庸平

"あいまい"なリーダーでは、ダメなのか?

2021/11/10 08:44

経営者になったばかりの頃、先輩経営者から『ビジョナリー・カンパニー』を薦められて読んだ。この本には、こんな一文が書かれている。

”ビジョナリー・カンパニーは、この「ORの抑圧」に屈することなく、「ANDの才能」によって、自由にものごとを考える。「ANDの才能」とは、さまざまな側面の両極にあるものを同時に追求する能力である。

AかBのどちらかを選ぶのではなく、AとBの両方を手に入れる方法を見つけ出すのだ。”

ORで判断を繰り返していっても、会社は大きくならない。ORでいる限り、会社の器は小さいままだ。ANDの思想で、組織は前に進んでいく。

優柔不断にも見えるこの思想は、「あいまい」さのススメだ。

この本を初めて読んだ時、ANDを実現するアイディアの発明が大切という意味だと捉えていた。だが、今は、あいまいさを受け入れる余裕をもてという両方の話だと理解している。

この「あいまい」という概念は、この一年半くらいの間で、ぼくの生き方やあり方にすっかり根付いてきた。福岡と東京の二拠点生活をはじめたのも、自分をあいまいな状態に保ちたいからだ。住む場所を固定しない。観察力を鍛えるのも、あいまいなものを、あいまいなまま受け入れるためだ。

そして、この「あいまい」について考えを深める一冊と出会った。『くらしのアナキズム』という本だ。

くらしのアナキズム

具体と抽象を行き来する鍵、”AIDA(あいだ)”』というnoteに詳しく書いたが、現在、ぼくは松岡正剛さんが主催する塾に参加している。

この塾名が「AIDA(あいだ)」なのだが、ここではAかBのどちらかを選ぶではなく、AとBの両方に触れ、その間にあるものは何かと考えることで、思考を深めていこうとしている。

この『くらしのアナキズム』は、「国とは何のためにあるのか」「ほんとうに国家は必要なのか」という問いへの思考が深まる。

アナキズムというと、「混沌」とか「無秩序」といったネガティブなイメージがあると思う。でも、歴史をたどっていくと、当たり前だが人類にとっての初期の社会は無政府状態だ。

この本では人類学の視点から国家について考えていくのだが、政府や国家が存在していなかった時代において、人間社会がどれだけ自由で平等だったがわかり、発想の逆転が起こる。

ぼくが『くらしのアナキズム』を読んで、特に印象的だったのが、初期の人間社会におけるリーダーのあり方だ。

現代の社会において、リーダーに求められる資質として「明確さ」をあげる人は多いと思う。明確なビジョン、明確な判断、明確な指示。リーダーが明確でないと、周囲のメンバーもどう動けばいいかわからなくなる。最近は、パーパスなんて言葉を使ったりもする。

ただ、初期の人間社会におけるリーダーは、「あいまい」さをもって、メンバーと接することを大切にしていたらしい。

例えば、村人同士で揉め事が起こった時に、「どちらが正しくて、どちらが悪い」といった白黒を、あえてはっきりとつけなかったそうだ。白黒をつけるのではなく、両方ともを宥めていく。ある種、うやむやにするようなコミュニケーションとも言える。

背景として、昔の社会では、ひとつのコミュニティにおける人口は少なく、コミュニティを継続させるために人手は貴重なので、関係を継続していく必要がある。誰かを悪者にして切り捨てるようなことはできないのだ。

ただ、揉め事を起こした当人同士の間では、リーダーに白黒をつけてほしいと言いよる。まさに「ORの抑圧」という感じだが、それを「ANDの才能」で融和へと導き、コミュニティを継続させていく。

その過程として、「あいまい」を良しと見做していたのだろう。

人間社会の初期状態において、現代とは真逆とも言えるリーダーが優れていると捉えられていた時代があるという論が、とても新鮮だと感じた。

いまの時代、「ORの抑圧」がすごく強い。

誹謗中傷は、AかBかの選択のなかで、自分の選択を他者にも強要し、社会を良くしようとする行為だ。誹謗中傷をしている人は、正義という名の下で行なっているから、自分の行為を攻撃だとは思っていない。どちらに所属しているのか、態度表明が求められたりする。

仕事においても、あいまいさを極力排除すべきという空気がある。素早く判断し、白黒をつけ、明確な指示を与えられる人がデキる人だとみなされる。ロジカルシンキング、フレームワークが求められる。

でも、人類の長い歴史の中で見たら、現在の社会のほうが特異な状態かもしれない。『くらしのアナキズム』を読みながら、そんなことを考えていた。

 

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