著者

岩渕潤子

世界のシンクタンクが注目する“メタバース”の可能性について

2021/09/08 10:29

今さらながらメタバースとはいったい何?

 前回までの連載では「メタバースとは何か」という言葉の定義には直接触れずに、記憶や過去の体験について語り合うインターネット上のプラットフォームの可能性についてお話をしてきました。ただし、世の中ではメタバース、ホログラム、VR(ヴァーチュアルリアリティ)、AR(オウグメンティッド=拡張リアリティ)、MR(ミクストリアリティ)といった言葉が乱れ飛ぶようになっており、似ているけど少しずつ違うことを意味するそれぞれの定義は曖昧のまま、こうした言葉を使っている人たちが増えた…という状況のようです。

 

 美術館や博物館、アート・フェアなどは、世界的にコロナの影響で長期間閉館を余儀なくされたこともあり、昨年から今年にかけて「VRウォーク・スルー」とか、「VRオープニング」といった企画を次々と打ち出し、成果物をYouTubeなどで配信してきました。英語の音声で良ければ夥しい数のコンテンツが提供されているので、ぜひ覗いて見て下さい。Take a Virtual Museum Tour Today. Here's Our List!

 

こちらのThe New Woman Behind the Camera Virtual Opening | Met Exhibitions

は、コロナ以前は大勢の出席者を集めて賑やかに行なわれていた美術館のオープニングを、密を避けて内容の紹介だけを行なう「ヴァーチュアル・オープニング」というカタチに編集した配信用コンテンツです。これらを見てみると、内容は基本的にキュレーターが説明しながら順を追って展覧会の紹介を行なっているもので、技術的に特に目新しいことが行なわれているわけではありません。

 ギャラリーを移動しながら、時々は視聴者が主体的に視点を変えて展示を眺めることができるといった工夫がヴィデオとは別に連動するウェブサイトに設置されていることはありますが、これもコロナ以前からあったもので、珍しくはありません。ここでは様々な技術的取組みをプロジェクト化できる潤沢な資金を持つ、NYのメトロポリタン美術館のThe Met 360° Project: Great Hall

をご紹介しておきましょう。このあたりは基本的に、今はコロナで簡単には行かれなくなってしまった都市の美術館や博物館の展示を「専門家の解説付きのヴィデオや加工した画像で鑑賞」して、自分が実際にそこへ行ったらどう感じ、何を考えるだろうという「知的活動=視聴者の想像部分」までも含めて「ヴァーチュアル・リアルの体験」として位置づけています。

 

 メタバース(Metaverse) という言葉が使われるようになったのは、SF作家のニール・スティーヴンスンが1992年の『スノウ・クラッシュ』の作中に登場させたインターネット上の仮想世界をそう表現してからのこと。以後、インターネット上での様々なコンセプトモデルや仮想空間サービスを意味して広く使われるようになりました。メタ (meta) とユニバース (universe) を合わせた都合の良い造語で、厳密な定義なし使われてきました。

 日本で「メタバース」というと、それはゲームの中の世界だったり、Eコマースを想定した仮想都市で、利用者はアバターとなってその世界の中に(主に消費活動のために)存在する・・・というイメージが強いので、欧米の美術館が提供しているような「ヴァーチュアル・ツアー」は単なるヴィデオ配信に過ぎないと思われるかもしれません。しかしながら、同時に大勢の視聴者がつながって想像力をかきたてられながら、SNSを通じて視聴者どうしの対話が促されているという点において、美術館・博物館のコンテンツは、ゲームやEコマースのサイトと同じようにメタバース上に存在しているということになります。

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